Profile
1996年から高知赤十字病院で助産師として従事。2004〜2007年は出張開業助産師として助産院や自宅での自然出産に携わる。2007年より愛媛県立医療技術大学で助産師教育に携わり、2008年から愛媛助産師会広報委員長として「ひめじょ通信」等で情報発信を続け、地域の母子保健の向上を推進している。
産後女性の身体のケアへ光を当ててほしいと思い
講義をお願いしました
産前産後の女性を支える助産師の役割は、時代とともに変化しています。身体的ケアだけでなく、心や生活に寄り添う多角的な支援が求められる今、助産師の教育現場にも新たな視点が必要になってきていると感じます。今回は、教育に携わる今村 朋子先生(愛媛県立医療技術大学 助産学専攻科)とともに、助産師の学びと臨床の現場における運動指導の“今”と“これから”について、じっくり語り合いました。
01
maemo atomoへの講義依頼のきっかけと、助産師教育への期待
西山:
昨年11月頃、助産学専攻科の統合ヘルスケア の講義の1コマで『助産師教育における運動指導』について、maemo atomoに講義のご依頼をいただきました。
そのお話を伺ったときは、本当に嬉しかったです。講義当日も、学生のみなさんがとても熱心に耳を傾けてくださって、私たちも大きな刺激を受けました。改めて、講演をご依頼いただいた経緯をお聞かせいただけますか。
今村先生:
今回はあえて“産後の運動指導”に焦点を当ててお願いしました。
これまでの助産師教育では、どうしても産後の身体ケアへのアプローチが弱い傾向がありました。特に“産後の運動”という観点は、これまでほとんど扱われてこなかった分野なんです。だからこそ、そこにしっかり光を当てていただきたいと思いました。
最近では“産後の身体へのケア”の大切さが少しずつ広まってきています。だからこそ今このタイミングで、学生たちに学んでもらう意義はとても大きいと感じました。
西山:
とても大事ですね。
今村先生:
昔は、“産後“についてあまり深くは教えられていなかったんですよね。
“妊娠”や“出産”に関する学びの流れの中で、「“産後”は“母性看護”の授業で扱っているからそれで十分」みたいな雰囲気がどこかにありました。
西山:
そうですね。
今村先生:
でもやっぱり、助産師が産後の女性に本当に寄り添うためには、身体や生活の変化をきちんと理解しておく必要があると思うんです。だから、今回maemo atomoさんにお願いしました。
西山:
ありがとうございます!“産後”というテーマがありましたが、いわゆる“産後のリカバリー”って、単に“休むこと”だけではないと私たちは考えています。
身体と心を整えて、次の生活へと移っていくための大切なプロセス――。そこを学生のみなさんにも伝えたい、という思いがありました。
今村先生:
たとえば、ここ10〜15年ほどで、女性の健康と“冷え”の関係についての研究が進み、“身体を温めること”の大切さが広く知られるようになってきましたよね。実際、産後の女性を想定した指導案を作るときには、“温める”という視点が“運動”や“食事”と自然に結びついていきます。
だからこそ、maemo atomoが取り組んでいる、産前・産後の運動に関するエビデンスがさらに強化されれば、学生や現場の方々にとっても、より実践的で活用しやすいものになると思います。
そんな世の中への広がりを、私自身とても期待しています。……本当にすごいことだと思いますよ。
02
産前産後の運動指導に関する研究・ガイドラインの現状
西山:
私たちが運動指導を始めた当初は、助産師の間でも「え、妊婦さんが運動していいの?」という声が一定数ありました。
今村先生:
なるほどね。
西山:
「危ないのでは?」という意見も聞きました。
今村先生:
そうですね。どんな運動なら安全なのか、その基準が明確でないと、助産師としても一歩を踏み出しづらい。だからこそ、「これは安全」と根拠をもって伝えられることが大切だと思います。
今はどうしても慎重になりすぎてしまう傾向がありますが、正しい知識と指導力を身につければ、助産師の支援の幅はもっと広がるはずです。
西山:
本来、身体を動かすことって、健康を守るために欠かせないものなんですよね。
ただ現場で伝えるには、エビデンスが不可欠です。根拠がなければ、助産師も妊婦さんも安心して取り組めませんから。
今村先生:
そうだね。
西山:
日本臨床スポーツ医学から発表されている、『妊婦スポーツの安全管理基準』や、日本産科婦人科学会による『産婦人科診療ガイドライン』においても改訂ごとに運動の必要性を高めており、以前は制限的だった部分も、今では“妊娠中でも安全にできる運動”として推奨されるようになっています。
だからこそ、最新の情報をもとに指導していくことが大切だと感じています。
今村先生:
ただ、そうした情報に自らアンテナを張っていないと、現場に取り入れられないんですよね。
“ここに載っているから”ではなく、常に最新の根拠を追いかける意識が必要だと思います。
西山:
本当にそう思います。ただ、運動の具体的な推奨内容はさらに研究を進めてていく必要のある部分だと感じています。
今村先生:
そうですね。
西山:
産後だけでなく産前も含め、“運動がどのように健康へ影響するか”という視点で、今まさに世界的に研究が進んでいる段階です。
つまり、エビデンスが積み上がっている最中で、現場で使える情報も日々更新されています。だからこそ、常に学び続ける姿勢は、とても大切だと思っています。
今村先生:
将来的には、『エビデンスに基づく助産ガイドライン』にも運動のアプローチがしっかり記載されるといいですよね。
マイナートラブル予防の観点だけでなく、“合併症・禁忌がないすべての妊婦に運動を推奨する”というのがもっと明確になれば、助産師も自信を持って提案できると思うんです。
西山:
『産婦人科診療ガイドライン』では、すでに合併症予防の観点から運動が取り上げられていますよね。
今村先生:
そうですね。(合併症予防だけでなく)“健康増進”という広い視点で、どんな問いを立てるかが重要だと思っています。そこを深めていくことで、運動の意義がより広く認識されるようになるはずです。
全体的な健康支援として位置づけられれば、助産師の支援の幅もさらに広がると思います。
西山:
実は、助産師の方々を対象に講義をさせていただく機会があったのですが、みなさんとても興味を持ってくださるんです。「確かに必要だよね」と共感してくださる方も多くて。
日々の現場で感じている課題と“身体を知る”ことが結びついて、パズルのピースがはまるように理解が深まる瞬間があるのだと思います。
今村先生:
そうだと思う。研修を重ねることで、それが“知っていて当たり前”の知識になっていくんです。
たとえば母乳育児でも、昔は“ポジショニング”*1や“ラッチオン”*2という言葉も一般的ではなかったけど、研修でその重要性が広まり、今では教科書にも載るようになりました。
運動も同じで、研修や学びを通じて必要性が広まれば、自然と現場で生かせる知識になっていくと思います。
西山:
たしかにそうですね!
03
運動の重要性を伝えるための実践と発信の工夫
西山:
実態としては、現場ではまだ十分に運動指導は浸透していないなと感じています。
今村先生:
そうですね、“そもそも意識がない”というのが実際のところかもしれません。
助産師教育の中で運動を体系的に学ぶ機会が少ないので「知らないから実践できない」という流れになっていると思います。結果的に、運動が“当たり前の知識”として根づいていないんですよね。
西山:
そうですよね。
今村先生:
それに、「やってもやらなくても同じ」って思われている部分もあると思います。
妊婦健診では必要最低限の項目は決まっているけど、運動は“プラスアルファ”の扱いになりがちで。保健指導の項目も、妊娠の前期・中期・後期ってあるけど、運動の話題は後回しになることが多い。
だからこそ、運動の意義をより明確にし、自然に指導に組み込めるようにしていくことが大切だと思います。
西山:
そうなんですよね、限られた学びの中でどこまで伝えられるかも課題ですよね。
今村先生:
そうそう。もう少し、運動を意識的に評価できるようなツールがあるといいですね。
例えば、「妊娠何週で、何歳で、普段どんな運動をしているか」といった情報を整理して、現状や不足している点を見える化できるような仕組みがあると、すごく助かると思います。
西山:
それはまさに私たちも注目していることです。
今村先生:
そうねんですね、やっぱり先に考えていますね(笑)。
西山:
助産師の方々も、安心して運動の機会を提供したいですし、「何が健康支援に効果的なのか」を知りたいと感じていると思います。
日々の限られた時間の中で、どこを見て判断し、何につなげていくべきかが明確になれば、助産師のケアはより安全で、より効果的になるはずです。
そうしたケアの積み重ねが、一人ひとりの妊産婦さんが自分の身体と向き合い、健やかに過ごせる未来につながると信じています。
今村先生、今回は貴重なお話をありがとうございました。
“産む・育てる”経験に運動が寄り添う社会をつくり、
想いと力をつなぎながら「出産をリスクにしない」未来へ向けて歩んでまいります。
また次回の対談をお楽しみに!
参考:
*1 ポジショニング:授乳時の抱き方。
*2 ラッチオン:赤ちゃんが授乳時に乳首を深くしっかりとくわえること。
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