Profile
1996年から高知赤十字病院で助産師として従事。2004〜2007年は出張開業助産師として助産院や自宅での自然出産に携わる。2007年より愛媛県立医療技術大学で助産師教育に携わり、2008年から愛媛助産師会広報委員長として「ひめじょ通信」等で情報発信を続け、地域の母子保健の向上を推進している。
運動は単なるエクササイズではなく
身体を理解する視点でもある
産前産後の女性を支える助産師の役割は、時代とともに変化しています。身体的ケアだけでなく、心や生活に寄り添う多角的な支援が求められる今、助産師の教育現場にも新たな視点が必要になってきていると感じます。今回は、教育に携わる今村 朋子先生(愛媛県立医療技術大学 助産学専攻科)とともに、助産師の学びと臨床の現場における運動指導の“今”と“これから”について、じっくり語り合いました。
01
助産師教育における
“運動”の現在地とは
“運動”の現在地とは
西山:
私も助産科学生時代に“運動“について学ぶ機会がありましたが、いまの助産師教育ではどのように扱われているのでしょうか?
今村先生:
現在、助産師のコア・カリキュラムが400項目程ありますが、“運動”を検索すると、出てくるの項目はわずか2項目です。しかもその内容は実践的な「助産診断・援助」の領域ではなく、「社会環境と助産学」という分野に含まれていて、助産学と他分野を結びつける基礎的な扱いにとどまっています。
「プレコンセプションケア」*1にも“運動”は出てきます。ただそこでは、“妊娠中から(運動を)始めるのでは遅い。妊娠前から(運動の)習慣がないと難しい。”といった見解が示されているものの、やはり、“(運動強度としては)必要に応じて”という曖昧な表現にとどまっているんです。その表現を見て、正直、「弱いな」と感じました。
西山:
そうですね。身体活動や運動の視点からみると、厚生労働省が令和6年に発表した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」*2では、妊婦さんや産後の方が適度な身体活動や運動を行うことで健康増進効果が得られると報告されています。ただし、具体的な運動内容についてはまだ明確に示されていないのが現状です。
今村先生:
そうそう、そうなんですよね。助産師教育のカリキュラムをみても多くの項目がありますが、妊産婦の“運動”に特化したものは本当に少ないんだなと改めて思いました。
西山:
たとえば、食事や栄養指導に関する授業はどれくらいあるんですか?
今村先生:
わたしたちの学校の授業では5コマほどです。
西山:
運動に関しては2コマくらいでしたか?
今村先生:
はい。栄養は体系化されていて、例えば貧血や妊娠高血圧症候群(HDP)の予防といった具体的なケアにつながっています。でも運動はまだ体系的に位置づけられておらず、日常生活の助産ケアの中にしっかり組み込まれていません。
西山:
そうですよね。運動にはエクササイズ的な側面だけじゃなく、身体そのものを理解する視点もありますよね。姿勢や動き、産後の回復支援でも知識があるかどうかで結果が大きく変わる。運動は単なる体操ではなく、助産ケアに欠かせない知識だと思います。
02
現場で見えてきた課題と気づき
西山:
病院で行う出産準備クラスにも運動の要素はありますし、臨床現場でも使われています。
ただ、運動はどうしても後回しになり、しっかり指導できている助産師は多くありません。
今村先生:
そうですね。運動指導に苦手意識がある助産師も多く、“そこまで必要じゃない”と思われてしまうので、優先順位が下がってしまうんです。
西山:
食事指導は丁寧にされますが、運動は「まあいいか」と後回しになりがちです。でもそれって、“なぜ必要か”“何につながるのか”の理解が深まっていないからだと思います。本当は外来で妊婦さんが不調を訴えたとき、運動の視点でできるケアはたくさんあるのに、そのつながりが見えていないのはもったいないですよね。
今村先生:
確かに。マイナートラブル*3への対応にも運動でできることは多いですが、重視はされていません。
学生の保健指導案でも運動はメインにならず、“スクワットを何回やった”といった記録があれば評価する程度。あくまで付け足しの扱いなんです。結果的に運動を中心とした指導案はほとんどなく、教育の中で“運動をケアにどう活かすか”という視点が十分育っていないのだと思います。
西山:
そうなんですよね。妊婦さんや産婦さんからすると、助産師が働きかけてくれないと「この人に相談していいんだ」と思えないことも多いんです。その結果、不調を訴えづらくなったり、つながりが生まれづらくなる。だからこそ「運動したい」と思ったときに助産師から提案ができれば、「聞いていいんだ」「やってみようかな」と前向きになれると思います。
今村先生:
そうですね。日常生活での身体の使い方については助産師が指導できれば心強いと思いますし、より専門的な支援が必要なときは他職種につなげられるといいですよね。
西山:
はい。助産師は産前産後の方に最も接する職業なので、運動の必要性を理解してもらい、必要なときに適切につなげる役割を果たせると良いと思います。
03
他職種との連携から見える可能性
西山:
理学療法士や運動指導に関わる助産師さんがいる場所も少しずつ増えてきていますね。でも、理学療法士が産科の病棟で働く場合、連携に課題があると聞きます。
“理学療法士=マッサージをしてくれる人”というイメージを持っている助産師もいると聞き、病棟に理学療法士さんが1~2人しかいないと、「こういう支援ができますよ」と助産師さんに言い出すのもハードルが高くて、お互い遠慮してしまう。こうなると、せっかくの専門性が活かされないままになってしまいます。
だからこそ、助産師が日常ケアの中で運動の視点を持つと、不調があったときに理学療法士さんにつなぐべきか、または整形外科か、他の専門職かを判断する力は助産師にもすごく大事だと思います。
今村先生:
そうですね。お互い何ができるかを理解し、橋渡しできることを考えると、改めて、例えば産後なら産褥日数に応じた動作や運動、正しい姿勢について助産師が知識を持つことの重要性に気づかされます。
西山:
そうなんですよね。例えば尿漏れは骨盤底筋群の機能と深く関わっています。でも、現場では尿漏れがあっても、しっかりした運動介入はあまり行われていません。「時間が経てば治る」と考えられることが多いですが、実際には悪化するケースも少なくないんです。妊娠中や産後のケアで運動の視点を自然に取り入れられれば、助産師としてもより幅広い支援ができると思います。
今村先生:
妊婦さんや産婦さんが、自分の身体を整える手段として運動はとても大切です。
誰かに施術してもらうというより、自分で自分の身体に向き合って動かす。そのためにも、助産師の力や他職種との連携は欠かせませんね。
次回、「PART2」では、運動指導の広まりや、
助産師が取り組む産前産後ケアの展望についてお話します。ぜひお楽しみに!
参考:
*1 プレコンセプションケア:妊娠を考える前に行う健康管理のこと
*2 「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」 https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf
*3 マイナートラブル:妊娠期に生じる不快症状、医学的な管理において問題が少ないもの。
| prev | 記事一覧 | next |

